THEMEセミナーレポート

VOL.2(2017年11月28日開催)<AI × ラーメン>
人工知能の使い方

人工知能AI

松尾 豊
東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 特任准教授

1997年 東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年 同大学院博士課程修了。博士(工学)。同年より、産業技術総合研究所研究員。2005年8月よりスタンフォード大学客員研究員を経て、2007年より、東京大学大学院工学系研究科総合研究機構/知の構造化センター/技術経営戦略学専攻准教授。2014年より、東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 グローバル消費インテリジェンス寄付講座 共同代表・特任准教授。専門分野は、人工知能、ウェブマイニング、ビッグデータ分析。人工知能学会からは論文賞(2002年)、創立20周年記念事業賞(2006年)、現場イノベーション賞(2011年)、功労賞(2013年)の各賞を受賞。人工知能学会 学生編集委員、編集委員を経て、2010年から副編集委員長、2012年から編集委員長・理事。2014年より倫理委員長。

ラーメンRAMEN

清宮 俊之
株式会社⼒の源ホールディングス 代表取締役社⻑兼COO

1974年⽣まれ。⼤学卒業後、TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に⼊社し、15年間勤務。その後、⼒の源グループに⼊社。平成26年1⽉より㈱⼒の源ホールディングス代表取締役社⻑兼COOに。2017年6月末時点の展開店舗数は国内138店舗、海外69店舗。創業30年を経て、新たにグループ全体で“JAPANESE WONDER TO THE WORLD“という想いを掲げ、国内・海外で積極的に事業展開中。

- はじめに -

一風堂などを手がける㈱力の源ホールディングスの清宮俊之社長と、AI研究者・東京大学の松尾豊先生を迎えて開催した2017年「六本木アートカレッジ」の第2回セミナー。
冒頭、まずお二人それぞれのビジネス・研究の最前線を紹介するプレゼンテーションからスタートしました。その後、<ラーメン>と<AI>との融合という視点で二人の対談は進み、日本独自の食文化であるラーメンが、その舞台を世界へと広げていくために人工知能が貢献できることへと議論は展開していきます。
ラーメンという身近なテーマを題材に、世界展開を見据えた日本発のビジネス戦略を考えるという、ディレクターの川村元気氏らしい柔軟な発想が実現されたセミナーです。ぜひレポートをご覧ください。

PRESENTATION

日本の食文化を世界へ

清宮 俊之

“2025年までに20か国600店舗で、1億人をラーメンで笑顔に!”

私達の事業は、4、5年前から国内よりも海外事業を優先させる方針を掲げ、現在海外13か国72店舗を展開しています。2025年には、年間のお客様数(外販商品の販売を併せて)を1億人の大台に乗せるというビジョンを掲げており、その数値目標から逆算して、20か国600店舗のラーメンチェーンに成長させる狙いです。

ただ実際のところ、海外進出ではテロなど日本では起こり得ないトラブルも多く、簡単ではありません。
勇気づけられるのは、英ケンブリッジ大のある学者が示した「ラーメンはサンドイッチ等と同じプラットフォーム的フードであり、世界的に広がるであろう」という見解や、「豚骨スープは、マヨネーズやバターと並ぶ乳化系スープである」といった評価です。そして、日本が好きで、日本の食文化に関心がある外国人が海外店舗のスタッフになってくれている点も心強いと感じています。

今の私達の戦略は「リアルジャパニーズ」を世界中の各店舗へ持ち込むことです。日本式の朝礼をはじめ、日本酒のSAKE BARの併設や、麺をすすって食べることを広める「Zuzutto宣言」を提唱するなど、各店舗を日本文化のショーケースにする試みを続けています。

その結果、例えば2008年にオープンしたNY店は今でも客数が増加傾向にあり、多い日の来店者は1,000名を超えるなど、海外でも着実に成果を積み重ねています。現時点では米国に7店舗ですが、年明けに西海岸で2店舗開店するなど、米国全土に展開する準備が整いつつあります。

東京オリンピックも近づき、日本への注目度が非常に高まっている今だからこそ、日本の外食産業を担う一企業としてプライドを持つと同時に、日本だけでなく世界の食文化の基準値を引き上げるような貢献をしたいと考えています。

PRESENTATION

AIの最新動向:眼を持ったAI

松尾 豊

“Googleを超える日本企業は、AIを駆使した食のプラットフォーム事業で誕生する”

ロボットが“眼”を持ったことで、近年AI技術は目覚ましく発展しました。イメージセンサーが「ディープラーニング」というAI技術を持つことで、ロボットは対象物を認識し、自ら分析や学習が可能になったのです。多様な生物が一気に出現したカンブリア爆発(約5億年前)は、生物が目を持ち、高度な認識によって生存戦略が多様化したことを原因とする説があります。この生物史に残る重要な転換と同じことが今、ロボットにも起こりつつあるのです。

「ディープラーニング」の技術を応用すれば、眼で見て認識する必要がある動作、例えば調理や縫製、万引き検知、調剤、接客など、様々な人間の仕事を機械がこなせるようになります。つまり、眼をもったロボットが、労働力不足や少子高齢化が進む日本で、様々な問題を解決してくれることは間違いありません。ものづくりという技術資産を持つ日本には追い風です。ただし、自動化にだけロボットを使うのではなく、競争力を生むことにこそ活用が必要でしょう。

その時、もともと食文化が豊かな日本にとって、食産業は大きな可能性を秘めています。これほど食事の美味しい国はなかなかありません。また、家事労働も全て含めると、世界の食産業は2,000兆円規模と圧倒的に大きい市場なのです。一方、現在、時価総額ランキングで上位のGoogleやFacebookは、約50兆円の広告市場でプラットフォームを築いた覇者です。もし調理やレシピのAI化で、最適なメニューを最適な人に自動で提供できるような食のプラットフォームができれば、彼らの比ではない企業が生まれる可能性すらあります。

その先駆けとして適しているものの1つが、日本のラーメンです。日本国内だけでも5,000億円とそもそもの市場規模が大きく、さらに今世界中でブームとなっています。今はまだ日本で食べるラーメンが一番おいしいですが、いずれ世界も日本に追いつくでしょう。その時、調理ロボットが重要な役を担っていると推測すると、食のAIというのは今後の発展が非常に楽しみです。

“外食産業の経営者たちと集まると、半分以上の話題がAIやロボット”

私も一風堂が大好きで、豚骨、いいですよね(笑)。海外店にも行ったことがありますが、先ほどの清宮社長のプレゼンからも世界展開という意味で非常に順調に推移しているように感じます。その中で、「食の自動化」についてはどのようにお考えでしょうか。

ご来店ありがとうございます。最近は外食産業の経営者たちと集まった時の、話題の半分以上はまさにロボットやAI化についてです。少子高齢化で働き手がどんどん少なくなり、外国人労働者もビザの関係でなかなかハードルが高い。どう補完するかを考えると、やはり自動化になります。

国内と海外では状況は違うと思いますが、調理の部分が自動化できれば、人件費のコストが大幅に下がるため、競争力に対するインパクトは大きいでしょう。店の雰囲気作りやメニュー作りも重要だとは思いますが、そこは簡単にAIに代替できない気がします。

そうですね。まずAIで調理ができたら強いですね。同時に、接客部分のニーズも大きいと言えます。日本の外食店では年々外国人のお客様が増えていて、英語以外の言語への対応に苦慮することが多い。調理だけでなく音声を聞いて通訳をしてくれるロボットがいれば、オペレーションがだいぶ楽になるでしょう。

“ラーメンとロボットには、外国人が好きな日本らしさが結実している”

プレゼンで「店舗を日本文化のショーケースにする試み」とおっしゃっていましたが、世界ではロボット自体も日本らしいものと思われていますよね。そんなラーメンロボットのお店があると、海外でも非常に喜ばれるのではないですか?

「クールジャパン」という言葉が今も適当か分かりませんが、海外の方はそういう点も非常に興味を持っていますね。全店そうするかは別として、厨房も接客も全てロボットで回すというスタッフゼロの店舗も作りたいと思っています。

ラーメンもロボットもまさに日本という感じがしますからね。AI化の切り口としてラーメンの分野から攻めるのは非常に面白いと思います。調理という観点でも、ラーメンは作り立てがやはり美味しいので、そのニーズをロボット化する価値は大いにあるでしょう。麺のゆで時間やスープの調合など、AIがミスなくやってくれる。海外のラーメン屋さんは麺が伸びがちのところが多いですが、そういうことは無くなるでしょうね。

“リアルタイムの店舗データは本当に喉から手が出るほど欲しい”

調理や接客だけでなく、AIによる店舗アナリティクスを絶対にすべきだと思います。店舗にカメラを入れて、どういうお客さんが何を頼んでどれくらい残したのか、平均完食時間や表情の変化などを認識・分析させる。

店舗アナリティクスによるデータは、めちゃくちゃ欲しいですね。

リアルタイムにメニューへの評価が返ってくるので、メニューの最適化がしやすくなる。店員さんの主観的な眼で見たのとは違う、より正確な情報がすぐに入手できる。Googleアナリティクスというのがありますが、あれの店舗版ですね。

今僕らは最低限のデータは吸い上げていますが、生きているデータではなくタイムラグがあるため、上手く活かしきれていません。リアルタイムのデータは本当に喉から手が出るほど欲しいですね。

今、ディープラーニングによる画像認識の精度が上がってきたことで、学習データをきちんと作りさえすれば、カメラを使ってさまざまな認識ができます。この人は好きな物から食べるとか、何が嫌いかとか、表情、箸使いの癖なども認識できるはずです。そうすれば、地域や民族毎に好まれる味を分析してカスタマイズすることも可能になります。

“これから2~3年が調理ロボットの勝負”

ディープラーニングの技術史を紐解くと、転換期が一気に進むことがお分かりいただけます。例えば、機械を要さない画像認識は、2012年に急激に精度が上がり、2015年には人を超え、2017年にはiPhoneXに顔認証機能が搭載されたぐらいです。顕著な分野は、医療画像で、X線やCT、MRI、内視鏡、病理診断など、AIの眼が人間のお医者さんを既に超えています。

そんなに早いスピードだったんですか?!一気にですね。

ただ、機械を要するフィジカルなAI応用はこれからで、ここで競争力に差が出ます。調理ができる機械技術が生まれるのはおそらく1~2年後、ハードウェアも含めて完成するのが2~3年後くらいでしょう。調理はスピードや精度、突発的な例外対応など複雑な要素が多く絡んでくるので、今のディープラーニングの技術では強化学習の部分で技術が足りません。しかし、あと1~2年で大きく進展することは間違いありません。ですから今はまさに変革期で、いろいろなビジネスチャンスがあります。

それでも1~2年ですか。本当に早いですね。計画を早めないといけないと痛感しました。

本当に革新的なことが起こると思います。昔は洗濯を手でやっていましたよね。洗濯機を持っている現代人からするとそれは驚きなのですが、あと20~30年後には「昔って食事は人間が作っていたのよ」と言うと子供がビックリする時代がやってきます。

“松尾先生のいる東大キャンパスに、AI導入のラーメン店の出店を決めました”

僕はネットの世界でいろいろ研究をしてきましたから、GoogleやFacebookなどのすごさもつぶさに見てきました。ちょっと前はネット上で本や洋服を買うなんてあり得ないと思われていましたが、それを信じてやり続けてきたAmazonがあっという間に世界企業になった。同じように、食の世界も自動化、機械化するのは確実な未来です。先ほども言いましたが、GoogleやFacebook、Amazonなどの広告市場というのは50兆円ほどで、それに比べて食産業は2000兆円ほどあります。だから食の世界でAIのプラットフォームを築けたらすごいことになるでしょう。そういう意味でも、世界的に人気のラーメン界からAI化のプラットフォーム企業が出てくることを期待したいです。

食産業の市場規模や実際のオペレーション上の課題という点でも、改めて外食産業のロボット化・AI化が必要だと思いました。僕は今日、松尾先生のいらっしゃる東大キャンパスに1店舗、AI導入の店を出店することを目標として決めました(笑)。商品を0円で提供しますので、研究中の学生さん達といろいろといじってください。

- 参加者との質疑応答 -

Q. 企業がAIを導入したいと思った時は、どこに掛け合ったら良いのでしょうか?

食品機械の会社やロボットを作っているベンチャー企業に、ディープラーニングを使った自動の機械を作って、と依頼する形になると思います。今は自動運転がホットなのでこちらから働きかけないといけません。私の研究室に相談してくださっても構いませんよ。

Q. 秘伝の味といった言葉がある食品業界だけに、AI化をすると情報漏えいが心配です。

リスクという点で言うと、医療・自動車業界のほうがはるかに大きいですよね。人命に直結しますから。外食業界は強固なセキュリティー対策が必要になりますが、人材難の解消や味の向上、メニュー開発が加速化するなどのメリットの方が、リスクよりも遙かに大きいと思います。また、対応策として、AI化が先行している医療・自動車業界からセキュリティーのノウハウを学ぶこともできます。

Q. 清宮社長は先ほど、将来的にロボットだけの店を作りたいとおっしゃっていましたが、投資額と回収期間のイメージはどれくらいでしょうか?

全くそろばんをはじけておりません(笑)。でももちろん億は超えるでしょう。海外店は日本の投資額の4~5倍で、フランスだとこの前1店舗で数億かかりました。金額に麻痺しているこのチャンスにAI投資の話をするしかないと思っています(笑)。外食産業は大きなマーケットです。東京オリンピックもあることですし、日本文化のショールームになるという意味でも、チャンスは自分で引き寄せないといけないと思いました。

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