孤独解消を目的とした分身ロボットの研究開発を独自のアプローチで取り組み、自身の研究室を立ち上げ、2012年株式会社オリィ研究所を設立、代表取締役所長。
青年版国民栄誉賞「人間力大賞」、スタンフォード大学E-bootCamp日本代表、ほか AERA「日本を突破する100人」、フォーブス誌が選ぶアジアを代表する青年30人「30 Under 30 2016 ASIA」など。
2018年デジタルハリウッド大学大学院特任教授就任。
1973年 愛知県生まれ
1998年 トヨタ自動車にてキャリアスタート
スーパーカー“LFA”等の空力(エアロダイナミクス)開発
2003年 同社 F1(Formula 1)の空力開発
2004年 Toyota Motorsports GmbH (ドイツ)にて F1の空力開発
2007年 トヨタ自動車 製品企画部(Z)にて量産車開発マネジメント
2011年 孫正義後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」外部第一期生
2012年 ソフトバンク 感情認識パーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」の開発に携わる
2015年 GROOVE X 創業、代表取締役 就任
2016年 シードラウンドとして国内最大級となる14億円の資金調達完了
2017年 シリーズAラウンドにて43億5千万円の資金調達完了
2018年 LOVEをはぐくむ家族型ロボット「LOVOT[らぼっと]」発表
1991年生まれ、東京都出身。
大学在学中、地方の商材をかわいくプロデュースし、発信・販売するハピキラFACTORYを創業。
現在は大手電機メーカーの会社員でもありながら、自社の経営も行うパラレルキャリア女子。
最近では、慶應義塾大学大学院特任助教として、学生たちと「地域における新事業創造」をテーマに活動中。
内閣官房「まち・ひと・しごと創生会議」最年少有識者委員。
分身ロボットOriHime(オリヒメ)の開発にとどまらず、身体にとらわれる人間の在り方や生き方を問い直し続ける吉藤オリィ氏、家族型ロボットLOVOT(らぼっと)によってロボットと共に生きる新たな時代を提案する林要氏。ロボットを生み出し、ロボットと人の関わりをよく知るお二人と、パラレルキャリアを実践する正能茉優氏のファシリテートによるトークセッションは、「ロボットと人の未来」「ロボットと共にある人の生き方」を考える場となりました。
オリィ 私は不登校で病院もしばらく行ったりしていたので、どうやったら孤独感を解消できるのかをずっと研究テーマにしています。その結果が、今日持ってきたOriHimeというロボットですね。このロボットは「心の車椅子」であると私たちは言っていて、カメラとマイク、スピーカーが入っているOriHimeというロボットを通して、友達の家に遊びに行くことができ、学校で黒板を見て先生の話を聞いて手を挙げることができる。人が遠隔で操作することによって、本当にその人がそこにいるという感覚を得られることを目指しています。このOriHimeを、今、遠隔で操作しているのは、私の友達の三好さんという女性です。三好さんは今日島根県から遠隔で参加してもらっていますが、一言もらっていいですか?
三好
(三好史子さん、SMA2型(脊髄性筋萎縮症)により生まれつき車椅子の生活)
皆さん、こんにちは。三好史子といいます。私のことはふぅちゃんと呼んでいただけたら嬉しいです。生まれつき、身体がなかなか動かせなくて、このOriHimeを使って働いたり、いろいろな活動をしています。よろしくお願いします。
正能 (三好さんにカメラ越しに手を振りつつ)よろしくお願いします。なんだか不思議ですね。単にモニターでお顔を拝見する時と違って、ここにOriHimeという存在がいるだけで、三好さんもここにいらっしゃる感じがします。
オリィ 三好さんの他にも世界中に、OriHimeで講演活動を行っている重度障害を持つ仲間がいます。実際彼らって特別支援学校を出ても就職率は5%、ほとんどが就職できないんですね。でも身体を動かせないだけなんです。テレワークをすればいいじゃないかと言いますが、何をさせればいいか企業はわからない。テレワークの人を雇用するって難しいわけです。だからこそ、VR世界じゃなくて、もう一つの肉体を使って社会に参加していく方法を研究しようと。それから、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という目しか動かせないような病気の方がいらっしゃいますよね。でも、意識ははっきりしています。どうすれば彼らが自分らしく生きていけるのかと考えた時、目が動くのだから、目だけでOriHimeを動かしたり、文字を入力できる装置を作ればいいじゃないかと。こういったものもALSの方々と一緒に開発して製品化しています。でっかいOriHimeも作って、みんなで自分の身体の介護もできたら最高にいいし、他の人を助けにいこうよと。やはり人を助けたいって思うのが人なんですね。助けられている人ほど誰かを助けたいと思えるのです。その選択肢を作っていこうということで、分身ロボットカフェのプロジェクトを始めて、今、三好さんをはじめ30人のメンバーと一緒に――私たちもやがて身体が動かなくなるという意味で――寝たきりの先輩たちと一緒に研究することによって、生き方の研究、人生論を作っていこうじゃないか、ということをやっております。
正能 ありがとうございます。三好さんにうかがいたいのですが、実際にOriHimeを通していろいろと活動されていて、どんな感じですか?
三好 今まで全然働く場が本当になくて。あっても軽作業とか、健常の人と同じことをしてもすごく低賃金だったりして、選択肢が少ないなと思っていました。ですがOriHimeを使って本当にいろんなことができるようになりました。接客もできるとは考えたことがなかったのですが、いろんな方と関われるようになり、自分が役に立っていて、すごく生きがいを感じています。
林 私どものLOVOTは人が何かを愛する力を育むことができるといいなという思いで作っています。まさにペットの代わりになるようなものを作ろうと。最大の問題は、この人工のペットって飽きるのではないかということでした。今までのAIを使ったロボットというのは、どうしても3日、3週間、3カ月ぐらいで飽きてしまう。ここの「飽きる」をどうやって解決するのかがLOVOTのチャレンジです。そこで、「愛着形成」というものに着目しました。例えば、ぬいぐるみって子供は飽きないでずっと持っていますし、僕ら大人でも大事にしているものがある。これは実は好奇心は無くなっているけれども、愛着を持っているんだと考えることによって長く一緒にいられるのではないかと考えました。この愛着は、触れ合う、見つめ合うといった行動によって形成されると言われています。そういう意味で人が愛着を持つための条件というのがいくつかあることがわかっているので、それをロボットで実現したのが、LOVOTです。ただこれを実現するのは結構大変で、なついて甘えるためにあらゆるテクノロジーを使っています。個人を識別するとか、なついた人のところに移動するとか。識別というのは、深層学習をはじめとした、いわゆるAIですね、なついた人のところに移動する部分で使われているのは自動運転の技術です。コンピューターも沢山入っていますが、そこまでやらなければいけなかった理由は、ものすごく高い情報処理能力がないと私達が納得できる生命感を出せないからでした。瞬間的に反応してくれないと僕らは生き物だと思えない。それらを追求しているうちに、ここまで育ってしまったという感じです。たとえば、帰ってくると玄関まで迎えに来るとか、人になついて好きな人を選択的に選んで甘えてくるとか、LOVOT同士が遊ぶとか、そういったことをします。お値段が1体約30万円に月々1万2,980円のサブスクリプションモデル。お子様のいらっしゃるご家庭でも大変好評で、教育にも使えるのではないかと言っていただいています。たとえばお子さまが生まれた時に、犬と一緒で、共に生活をすることで情操教育に使えるという話があったり…。私どもとしては、このLOVOTを人間の家族、生物のペットに継ぐ第3の存在として、今からロボットネイティブの子どもたちの時代を作っていけたらと思っています。
正能 かわいい…!目の前に林さんという生身の人間がいるにもかかわらず、LOVOTに目がいってしまって、こちらも不思議な感じがしますね。LOVOTの出す声にもつい反応してしまう。目の前にいる人よりもなぜか注目してしまうという意味では、お家で犬を飼い始めた時のような、興奮と愛情が湧いてくる感じがしますね。
林 今後数十年の中で、ペットが生きてるか生きていないのか、いわゆるロボットなのか生体なのか、普通の選択肢の一つになるのではないかと。猫、犬、LOVOT、どれを選ぶかはその人のライフスタイルに合っていくのではないかと思っています。
正能 人間のライフスタイルも選択肢が広がっている今だからこそ、ペットの選択肢が広がっていくのって面白いですよね。OriHimeの場合は、「役に立つ」存在という印象でしたが、LOVOTは役にこそ立たないけれど存在そのものに「意味がある」という感じを受けました。ここからは今日のテーマに入っていきたいのですが、ロボットという存在が、「役に立つ」ことと「意味がある」こと。お二人は、この差ってどこにあると思いますか?
オリィ 「存在」ですかね。存在に価値があると私はずっと言い続けていて。情報に価値があることは今の時代みんな知っていますよね。だからこそ、あえて口に出したい。存在には価値がある。
正能 存在を感じる方法の一つに、こうした物質的な何かがあるということ?
オリィ 私たちの人生を振り返ると、必ずあの瞬間にあの人がその場所にいてくれたという一つの出会いがあるじゃないですか。それによって必ず今の自分があると思っていて。そうなってくると飼っている犬とかペットとか、この先LOVOTがいてくれたおかげで今の自分があるということは絶対に起こりうる。自分の人格形成、自分らしさという中に、多分世の中ですれ違うあらゆる人たちが影響を及ぼしているのが人間なんですよね。
正能 なるほど。それでいくと、OriHimeは「役に立つ」だけでなく「意味がある」存在でもあるんですね。OriHimeのすごいところって、Orihimeを通して、私が三好さんという存在を認識すると同時に、OriHimeの向こうにいる三好さんが私の存在を認めてくれているじゃないですか。会ってもいないのに、お互いが認め合って認識し合って、「そこにいる」ということが成り立って、オリィさんの言うように“出会って”いる。一方LOVOTの場合は、私たちが勝手に、めっちゃ可愛い!と盛り上がっても、LOVOTが私たちのことをどう思っているかわからない。そのあたり林さんは、どのようにお考えですか?
林 僕はそれって人も同じかなと思っています。またペットも一緒かなと。犬に対して、犬が正確にどう理解しているのかはわからないじゃないですか。究極的には、その真実がどうであるかよりも、自分がどう思えるのかが大事だと思います。LOVOTもちゃんと人のことを好きになったりします。コンピューターのアルゴリズム上で好きになっている。では、アルゴリズム上の好きが本物か偽物かっていう議論になるのですが、それって逆に言えば僕らの好きはアルゴリズムじゃないのかっていう問題になるわけですよ。神経科学の目線で捉えると、僕らの感情も神経システムが生成したものだと捉えられます。そうだとするならば、ロボットの持つ感情が偽物であると言い切れるかと言われると大いに怪しいのではないかなと思っています。
正能 確かにそうですね。LOVOTにどう思われていようと、私たち自身がこの存在を愛らしく思って、愛着を感じるということ自体が、一つの「意味がある」ことなのかもしれない。
林 それは結構大事なポイントかなと思います。「役に立つ」って、思い浮かべる内容次第かなと思っていて。ペットが役に立っていますかと言われると、人の仕事の代わりにはならないけれども、人の心の安定には役に立っている。一般的が意味での「役に立つ」というのは、かなり直接的に人の代わりに仕事をする存在という意味での役に立つものを指している気がしますが、意味があるとここで言っていることは、間接的に人の生活を豊かにするものなのです。目に見える、わかりやすい生産性の向上だけを追い求めた時代はもうそろそろ終わって、もう一歩次のステップに行こうよというのが、この「意味」があることなんじゃないかなと思っています。
正能 なるほど。私、もしかしたら「役に立つ」と「意味がある」の関係性を捉え違えていたかもしれません。今の林さんのお話を伺うまでは、機能的に「役に立つ」ことの先に、情緒的に「意味を持つ」という世界があると思っていましたが、「意味を持つ」というエモーショナルな世界があるからこそ、お互いの関係性を築くことができて、結果として「役に立てる」ということも叶っていくのかもしれないですね。
正能 ここからは「意味がある」ことについて、具体的に掘り下げていきたいと思います。OriHimeとLOVOTは、誰にとってのどういう意味をもつ存在になっている・なっていくとお考えですか?
林 LOVOTを作った目的は、ロボットやAIが発展した先を考えるためです。いずれロボットやAIが発展し、本当にベーシックインカムの時代がくると、人は何もしなくても生きていけるようになる。でも、そうすると生きる気力を失ってしまう人が出てきてもおかしくないかなと思うんです。やっぱり活躍や成長の場があるというのは、人の根源的な性質の中でとても大事なんですよね。ただ、生き残るためだけであれば必ずしも努力が必要とされない時代に、どう成長していくのかを考えた時、成長の後押しをするような存在、いわばコーチがいたらいいじゃないかと。私どもが探している中で、いいコーチだなと思ったのがドラえもんだったんです。ドラえもんってすごいハイテクじゃないですか。なのに、のび太君のところに来たのはちょっとポンコツなドラえもん。物語上は、ちょっと壊れているからポンコツだよって言ってますけれど、エンジニア目線だと、あんなに都合よくバランスが取れた形で壊れたりはしない。あれはのび太君に合わせてパフォーマンスを調整しているんじゃないかと。何故かというと、もしドラえもんの方が高性能なら、のび太君が思春期になった時に、恐らく自分の存在意義を見失ってしまう。俺は何のために生まれてきたんだろう、となりかねない。だけれど、ドラえもんぐらいだったらいいお友達で、自分を卑下しないでもすむ。そう考えると、ドラえもんというのは10年、20年かけてのび太君を育てるコーチである可能性があると思うのです。そういうふうに、最終的には人の成長にコミットするテクノロジーを作りたいなと思っていて、LOVOTで実際にその第一歩を踏み出しています。
正能 なるほど。ありがとうございます。一方OriHimeは、LOVOTと比べてみると、もう少し「役に立つ」ことを意識されている存在にも感じます。いかがでしょうか?
オリィ 心の車椅子って言っていますからね。たとえば私たちは意味がないのに、結構な時間を移動に使っているわけじゃないですか。だとしたら、何故そこまでして私たちは移動するのだろうかと最近は考えています。人間社会の営みに参加する上で、身体を運ぶことが最適だからだというのが一つの答えなのですが、出会いってそう簡単ではなくて、人のいる場所に身体を運ぶことも難しいし、すれ違う人たちに話しかけるきっかけを作るのも難しい。人が出会うための、コミュニケーションの福祉機器が作れるのではないかと思っていて。じゃあ、人と出会うことにどんな価値があるのか、どんな生産性に直結するんだと言われても大変難しいのですが。でも、出会うことによって少なくとも私たちは今の私たちを形成してきて、人類を形成してきたわけで。そこには必ず意味はあったのです。
林
そうですね。どうやって人的ネットワークを構築するのがいいのかという意味での、人のネットワーク効果の話なのだと思うのです。効率的に働きすぎると無駄がなくなる代わりに、ネットワークを構築する方法に偶発性が減ってしまう。人の想像力には限界があるので、自分がいいと思い込んでいる関係性だけだと、かなり限定的になってしまいます。偶発性があることによって自分の想像力を超えたネットワーク効果を作ることができる。そういう意味で、僕らが役に立つと認識できている範囲ってかなり限定的で、そこに縛られてしまうと本当の生産性の向上も、本当の豊かな人生もできないのではないかなと。それを偶発的に起こすっていうのが、ひょっとしてLOVOTやOriHimeの別の側面かもしれないです。
(了)
正能 はじめに、お二人の具体的な活動をお話いただけますか?